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J鉄局TOP>珍車ギャラリー>阪堺電気軌道 モ501形
「最先端であり続けた還暦電車」-阪堺電気軌道 モ501形阪堺線(本稿では、南海時代も上町線も含めてこう呼びます)のレジェンドといえば、モ161形でしょうね。昭和3~6年に16両製造されました。 昭和2年製の半鋼製大型ボギー車モ151形の改良型で見た目も同様です。 違いといえば、連結運転ができるよう間接制御器を取り付けたことで、 当時の最新技術を盛り込んだ車両です。 とはいえ、見るからにクラシカルなスタイルです。 私が鉄チャンを始めた40年以上前でさえ「これは古風だなあ。」と思ったものです。 1976年にワンマン化され三扉から二扉に改造されはしましたが、 ほぼ昔の姿カタチで現存します。”奇跡の電車”といって良いでしょう。 それも現存するのが一両だけじゃないというのがスゴイ。 今でこそイベント優先の動態保存的な運用になっていますが、 少し前までは夏場を除けば平然と普通に運行されていました。 ある日、何事もなくやってきたモ161形に乗車しました。 何の気負いもなく、自然と昭和という時代にタイムスリップしたような思いでした。 さて、阪堺線において、そんな思いにさせてくれるのは、モ161形だけではありません。 私にとってはモ501形もそうです。 モ501形は1957年に帝国車輌で製造されました。 モ161形と比較すれば、30年も新しい車両なので、たいしたことはないように思われますが、彼らも もはや還暦を迎えています。 当時製造された国鉄車両は、ほとんど姿を消してしまっているわけですから、 彼らをしてレトロ電車と称しても、何の問題もないでしょう。 しかし、モ501形はモ161形と違って 全金属製車体であり、平行カルダン駆動の間接制御車です。 彼らが生まれた1950年代は、車体のみならず、電車の駆動方式、制御方式、台車のサスペンションなどが一新された時代だったのです。 そうそう、当時最新の路面電車といえばPCCカーとも呼ばれていました。 例をあげれば、大阪市の3001形(1956年)、都電の5500形(1953年)などがそうです。 しかし、空気バネ台車までも装備しているのはモ501形だけです。 モ501形は、路面電車として初めて空気バネ台車を搭載した最新鋭の車輌だったのです。 2018年現在、路面電車でもカルダン駆動、間接制御、空気バネ台車は当たり前の装備ですが、 1950年代に、これだけの装備を盛り込んだ路面電車は珍しい存在と申せましょう。 ところでこのモ501形が登場して以降、路面電車の進化はストップしてしまっているのです。 新車も登場してはいますが、旧型車の部品を流用したものばかりなのです。 つまり、モ501形は後述する”軽快電車”が登場するまでの20年あまり、最先端であり続けることになります。 なぜでしょう? それは、路面電車が受難の時代を迎えたからです。 1960年代から70年代にかけて、モータリゼーションの荒波に飲み込まれ、 大阪、横浜、名古屋、神戸、福岡といった大都市で路面電車は全廃され、 東京や札幌などでもその一部が残るのみとなってしまいました。 廃線によって仕事を失った多くの路面電車は、そのまま解体の憂き目をみることになりました。 もっとも経年の新しいもの、いわば程度のよい中古車は各地に移籍しています。 大阪市の2601形は鹿児島市の800形、広電の900形に、 都電の7000形は函館市の1000形に、2000形は長崎の700形にといった具合です。 しかし、カルダン駆動の新性能車で移籍して活躍したのは鹿児島市700形(もと大阪市3001形)ぐらいのものです。 (それも大改造され、ラッシュ時専用…。) むしろ各地で歓迎されたのは旧性能車。 すなわちツリカケ駆動のコイルばね台車付き車両でした。 これらはシンプルなメカであったが故に堅牢で扱いやすく、メンテナンスも容易だったからです。 路面電車が全国的に退潮となってゆくそんな流れにあって、 電車を受け入れた側の事業者にも、とにかく、旧型車で凌ごうという思いが強くあったに違いありません。 このことは鉄道車両を製造するメーカーにも影響を与えています。 もともと路面電車の市場規模はそれほど大きい訳ではありません。 かつ先が見えないとなれば、 マーケットとしての魅力が乏しいと言わざるを得ません。 新しいメカを導入して売り込むだけのメリットはなかったように思われます。 ここで、モ501形の車輛メーカーに目を向けると帝国車輌です。 明治23年頃創立の老舗車輛メーカーではありますが、 1968年に東急車輌製造に合併されています。 台車(KS-53)のメーカーはというと 汽車会社(汽車製造会社)です。 これまた明治29年に創立した老舗車輛メーカーですが、 1972年川崎重工業に吸収合併されていまいました…。 大手車輛メーカーが見向きもしなかった市場に注力せざるを得なかった当時の関係者の苦悩が偲ばれます。 ちなみに、参考文献(鉄道ピクトリアル 1989年8月号 #515,「特集 台車」P52~55)によると 1989年の時点で、 路面電車の台車を多く供給している日本車輌(NS、N台車)には空気ばね台車はありません。 住友金属(FS台車)においても1980年のFS-82、83年のFS-83のみが空気ばね台車で、以後FS-89まで、すべてコイルばねです。 さて そのFS-82:(広電3500形)、FS-83(長崎2000形)を搭載している電車に注目すると…。 運輸省の肝いりで20年に及ぶ路面電車の技術の空白を埋めるべく日本鉄道技術協会で開発された路面電車でした。 そう”軽快電車”と呼ばれる電車です。 彼らは路面電車における、久々の新車であり、大きな期待を背負ってのデビューではありましたが、 基本的にはモ501形と大差はないと思われます。 というのも昨今の路面電車でLRVとして新車の主流となっているのは、 ドイツ、ボンバルディア社製の、あるいはそのライセンス生産となる超低床車です。 悲しいかな、軽快電車には技術の空白を埋めるだけのインパクトはなかったと言わざるを得ないのです。 広島3500形は2012年以降休車状態、長崎2000形は2014年に廃車されています。 最先端であればあるほど、不測の事態も起こりえますし、多くのパーツが特注品だったりすることが多いのです。 彼らもまた、最先端であるということで、かえって長生きできない宿命を背負った例であるように思われます。 対して、モ501形は、台車を履き替えるなどということはしていません。 冷房改造こそ行われていますが、ベースとなる機能、性能はそのまま維持しています。 ”軽快電車”に比して倍近くの年月にわたって頑張っているわけですから、モ501形は本当にスゴイやつです。 異端となってしまったカルダン駆動を維持するより、ツリカケ台車に履き替えた方がラクだったに違いありません。 ここで注目していただきたい電車があります。 阪堺線のモ351形です。画像をご覧ください。 1962年から製造された全金属製大型ボギー車で車体はモ501形と共通ですが、 電動機などを流用したツリカケ駆動車であるという点が違います。 メーカーはもちろん帝国車両です。 台車もご覧ください。モ501形と同じスタイルですね。 空気バネを使用している希少なツリカケ台車で、こちらは帝国車両製です。 どうやら、帝国車両は、早くからエアサスの開発に取り組んできた汽車会社から、 そのノウハウを得るべくモ501形にKS台車を導入したと思われます。 しかし、空気バネ台車付きのモ351形は5両製造されただけで、 その後に導入されたのは、大阪市電の1601形。すなわちモ121形です(1968年移籍)。 画像をご覧ください。 モ161形にそっくりですね。昭和初期に作られた同世代の電車です。 製造後40年を経て移籍したことになります。 大阪市電には前述の3001形を含め製造後10数年という新しい車両がいくらでもあったのです。 なぜ、こんな古いものをよりによって…。と思いませんか? これは憶測に過ぎませんが、当初1601形は部品取りと考えていたのではないでしょうか。 そうです。モ351形を増備するために…。 ところが奇しくも、移籍と同じ年に帝国車両は合併されてしまうのです。 合併先の東急車輌はモ351形を製造することはありませんでした。 ただ1601形は前述したように昭和初期に作られた電車です。 路面電車に限らず、この世代の電車はめっぽう頑丈なのです。 阪堺線のスタッフは、1601形の痛み具合を見て、 これならモ161形などと同じメンテでとりあえず何とかやっていけると考えたのではないでしょうか。 もし帝国車両がそのまま存続していたら、モ351形は増備され、モ501形も台車をツリカケ台車に履き替えていたかもわかりません。 (ちなみにモ121形の制御器や電装品は1996年~98年製のモ601形に受け継がれます。) こうした経緯を経て、阪堺線のスタッフはKS台車を守り抜いたのです。 考えても見てください。車両製造メーカーが消滅してしまっているわけです。 すべて自前でメンテナンスし維持してゆかねばならなかった阪堺線のスタッフの苦労は半端ではなかったと偲ばれます。 参考文献;鉄道ピクトリアル 1989年8月号 #515,「特集 台車」P52~55) 参考文献:「路面電車ガイドブック」 誠文堂新光社1976年6月
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