2013/10/14 UP |
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J鉄局TOP>珍車ギャラリー>JR東日本 E993系 ACトレイン
−JR東日本 E993系(ACトレイン)−これからの通勤電車に求められること−E993系は 「ACトレイン(Advannced Comumuter)」と名付けられました。JR東日本が次世代の通勤・近郊型列車をあり方を問うべく、2002年に開発した試験車両です。 連接構造や外吊り扉、そしてDDM(直接駆動モータ)など試験的要素が多く採り入れられました。 しかし、2006年9月には解体されてしまうのです。車両としては4年という短い一生です。 さて、JR東日本は、E993系からどのような成果を求めたのでしょうか。 、
−すこしでもゆったりとした車内を−−−ラッシュ時には車内が混雑するのは当たり前ですが、それでも押し合いへし合いしながらというのは気分のいいものではありません。 ハイヒールで足を踏みつけられようものなら、それはたまったものではありません。 では、この混雑を解消するには、どうすればいいでしょうか。 まず、列車の本数を増やすという手があります。 そのためには、閉さく区間を増やして、… わかりやすくいえば信号を沢山設置することで交通整理をし、運転間隔を短くすればいいわけです。 しかし、これにも限界があります。それだけ列車の数を増やすわけです。 当然電車の数も乗務員の数も増やさなければなりません。 このことは昼間遊ばせておく電車を増やすことにもなり、経済的な方法ではありません。 ラッシュ時だけ、電車を増結してこれをしのぐという手もありますが、これとて電車を昼間遊ばせておくことに変わりはありません。 それどころか、長大編成となった列車の最後部は結構空いてたりして、これも根本的解決にはなりません。 ではどうすればよいか。 究極の方法は、1両あたりの電車のキャパシティ(容量)を増やせばよいのです。 2階建て電車というのは、この点で有効な方法です。 JR東日本の新幹線MAXはまさにこの例です。 でもこの方法は、乗客に階段の昇降を強いることになりますし、 これをいやがる乗客が、ドア付近にたまってしまったら、元も子もありません。 特に問題なのは、乗降時間がかかってしまうことです。 停車時間を短く切り上げることもラッシュ時輸送には欠かせない要件で、 そのためにワイドドアー車や、6扉車などが開発されています。 今更いうまでもありませんが、ワイドドアーはさておき、2階建て電車に6扉車というのは、ちょっと無理です。 在来線では、同じくJR東日本にE217系2階建て電車が存在しますが、 長距離通勤客限定の特別列車ともいうべきスジに投入されています。 その特殊性ゆえ、この系列の増備はありませんでした。 では2階建て電車にせず、床面積を拡げる…というのはいかがでしょう。 でも鉄道車両には、車両限界というのがあります。 いくら大きくしたいからといって、プラットホームを削って走ったり他の列車と接触するおそれのある電車など作れるはずもありません。 無理ですね−−−。いや、方法はあります。 車体の壁を削って薄くすればいいのです。 たかがしれているといわれるかもしれませんが車内は拡がります。 実は車体の壁には空洞があります。 開閉するドアの収納部分、つまり戸袋と呼ばれている部分です。 これを不要にする方法があります。まずプラグドアです。 しかし、これは一旦ドアを外側に押しだして開くという方法です。 機械的にも複雑ですし、片開きならともかく、 両開きの通勤電車に導入するのは無理があります。 ラッシュ時の実態を考えれば、 最後には強力なパワーでドアを内側に押し込む必要が出て来るでしょう。 そんな強烈なパワーで指つめなどの事故でも起きようものなら、これは怖いですね。 そこでE993系−ACトレインでは、 車体の壁を削るために外吊りドアを採用することにしました。 もちろん、つり下げる部分は出っ張ります。 でも、車体を屋根側に向けてすぼませてゆけば、このくらいのスペースは作れます。 ところで、ACトレインには、グリーン車仕様ともいうべきクロスシート車(C号車)が存在します。 実は、このC号車だけ従来型ドアが設置されていますので、ここで比較ができます。 C号車の室内幅は2789mm。これ以外(C号車以外の外吊りドア車)は2830mmですから、車幅は4cmほど広くなりました。 もうひとつ。1車体あたりの長さを短くするという方法があります。 車体が短ければ、カーブを曲がる際に有利です。 イメージしてください。車端部は曲線の外側に、中央部は曲線の内側に飛び出す格好になります。 車体限界はこのことも考慮して定められています。 車体が短くなれば、車両限界にゆとりが生じ、車体の幅を拡げることができるのです。 ACトレインの最大幅は車輌限界の上限となる3000mm、E231系より5cm広くなりました。 それだけではありません。曲線運行時の安定性も向上します。 交差点をL字形に曲がってゆく路面電車に連接車が多いのも、そういうわけです。 乗降時の安全性を確保するのにも有効です。 私は、通勤時、阪急石橋駅を利用するのですが、カーブにあたる車両に乗り込むとき、その中央部のドアは避けるようにしています。 大の大人でも、怖いと感じられるぐらいホームと電車の間が開いているのです。 もっとも、JR東日本の通勤路線にこんな急カーブは存在しないでしょうが、 車体が短くなれば、カーブしているプラットホームからの乗降がしやすくなるのは確かです。 しかし、車体を短くしても台車は必要です。台車は重量物ですから増やしたくない。 そこでE993系−ACトレインでは、 車体を連接構造にすることにしました。 つまり、連結面側の台車を隣の車体の台車と共用にし、 車両のつなぎ目に台車を配置するという方法をとったのです。 普通、2両分の車体に必要な台車は4台ですが、 車両のつなぎ目に台車を配置するという方法をとれば、3台ですませることが出来ます。 これなら、一車体当たりの長さを短くしながら台車の数を減らせます。 加えて連接部分には、直径1m60cmの大きな円盤が取り付けられ、客室と一体化しました。 狭っ苦しい感じもしません。その分、床面積も拡がりました。 ちなみに、ACトレインの場合、車体長は両先頭車が16050mm、中間車が13000mmで、編成長は都合73200mmとなります。 −経済性の追究−−−車体を軽くすれば、燃費に相当する電気代は、当然安く付きます。ACトレインでは、アルミ車体とステンレススチール車体の両方を用意、検討の課題としました。 川重製の@.A号車はアルミニウム合金製ですが、東急製のB〜D号車はステンレス製です。 なお、C号車はシングルスキン構造で、他の4両はダブルスキン構造となっています。 ダブルスキン構造は、2枚の板の間に補強を入れて強度を持たせるもので、段ボール紙の断面を想像して頂ければそれに近いものです。 容易に構体を構成しつつ、柱や梁が不要となるので、骨組みや内装を簡素化できるメリットがあります。 アルミ車体のダブルスキン構造については新幹線で、もはや実用化されているもので、 今や日立のA-Trainシリーズにも採り入れられていますが ステンレス車体でのダブルスキン構造は珍しく、ACトレインが初めての試みです。 というのも、実はこの方式、扉の取り付けが難しいのです。 シングルスキン構造のC号車だけが従来型のドアで他は外吊り式となっているのは、こういう事情もあったのです。 アルミ車体か、ステンレス車体か。 これはかねてから、課題とされていることです。 確かに、近年の電車の車体には多くアルミが用いられるようになりました。 しかし、車体強度の問題と素材にかかるコストとの兼ね合いで考えてゆかねばなりません。 JR東日本では、通勤電車は、シングルスキン構造のステンレス車体でという流れになっているようです。 もっと別の観点から、軽量化できないか。 JR東日本は、モーターにもメスを入れました。 モーターを減らせモーターは高価なパーツです。そしてそれを制御する制御器もとても高価なデバイスです。モーター一つあたりのパワーをUPすれば、編成あたりのモーター数も制御器もその数を減らすことが出来ます。 このことはメンテナンスも点でも有利です。 制御装置(SC932)はB号車に1台だけ搭載されました。もちろんVVVF制御(2レベルPWM制御のIGBT)。1C4M。 しかしハイパワーのモーターは当然大きくなります。 狭軌である在来線の台車にハイパワーのモーターを取り付けようと思っても、スペースがありません。 ましてプラットホームとの段差をなくしていこうという低床構造が必要ならばなおさらです。 (床面はE231系電車より15mm下げられ1150mmとなっています。) また経済性を高めるためには、軽量化が必須の条件ですが、重いモーターを取り付けていたのでは軽くした意味がありません。 いや、それよりも問題となることがあります。 実はハイパワーのモーターは、軽量化された車体とは相性が悪いのです。 なぜなら、すぐに空転を起こしてしまうからです。 地面とは違いレールの上はつるつるです。 走行する際の抵抗が少ないため、鉄道は極めて経済的な乗り物となるのですが、空転しやすいという特性があるため、 パワーをいかに投入してゆくかという点では、自動車などとは比べものにならない繊細さが要求されるのです。 第二次世界大戦末期、D52形という強力なパワーを持つ貨物用蒸気機関車が登場しました。 鉄不足だったため、様々な部品を材木などで代用したのですが、軽くなりすぎたため、空転を起こしてしまい、 せっかくのパワーを発揮できず、コンクリートなどの死重を積み込んでようやく運転にこぎ着けたそうです。 この問題は、理論上、簡単に解決します。 軽くなった車体を支える車輪を減らし、接地する車軸の軸重を重くすればいいのです。 でも、旧式の貨車のような単車では,きついカーブを曲りきれません。 車長の長い電車では、やはりボギー台車が適当でしょう。 1軸ボギーという手もありましたが、JR東日本は、日本では一般的な2軸ボギーにこだわりました。 ここでもE993系の連接構造は有利に働きます。 E993系の場合、5連ですから、本来10台必要な台車を6つですませることが出来ました。 もちろんE993系の場合、一車体当たりの長さを短くしているので、 単純に比較は出来ませんが、車軸あたりの軸重は重くなっていますから、 それを駆動させるモーター一つあたりのパワーもUPできます。 モーターのみならず台車の数を減らすことで、軽量化も促進されることになるのです。 脆弱な軌道であっても高速列車を走らせたかったかつての小田急電鉄は、このメリットを活かし特急車を連接車としています。 →参考:珍車ギャラリー 小田急電鉄 20000形 RSE ギヤボックスをなくせJR東日本は、モーターの構造自体にもメスを入れました。モータというものは、低速で回転させることが難しいのです。 ですから、モータ軸に小振りのギヤをを取り付け、それに車軸の大きなギヤを組み合わせることで減速させてきました。 しかし、その分伝達効率は悪くなり、騒音も発生します。可撓継手によって、かつてのツリカケ駆動よりは、ましになったものの まだまだ、それ自体の堅牢さが求められていて重い台車は、ギヤと継手によって、ますます重量がかさんでしまいました。 そこで、ギヤと継手を無くしてしまおうと、直接駆動を試みることにしました。 ダイレクトドライブモーター(DDM)です。 回転子に永久磁石を使用したインナーローター式。定格出力は200kwとなっています。 冷房装置を減らせ。車体が短くなった分、編成両数を増やして対応するわけですが、その分クーラーが増えてしまっては経済性はダウンします。そこで、冷房装置はAU909を@号車とD号車に、AU908をB号車の屋根上に各1台搭載することにしました。(ともに53000kcal/h) つまり、A号車とC号車には冷房装置はないのです。 ご心配はご無用、前後の車輌からダクトを通して冷気が供給されます。 このほか、ACトレインには、バリアフリー対策、エコロジー対策、故障時のバックアップ体制など盛りだくさんの要素が盛り込まれています。 さて、これらの要素を踏まえ、JR東日本は、2006年3月、量産先行車であるE331系をデビューさせました。 しかし、その後、量産車は生産されず、2013年10月現在、E331系は2年以上も営業運転からも外されたままです。 なにが問題だったのか? それは、E331系のページでお話しすることになります。
E993系ACトレイン メモ |
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