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東京都営地下鉄 新宿線用試作車 10-019
10-019                          笹塚駅 
10-019 試作車 1971年 日本車輌
長さ(m) 幅(m) 高さ(m) 自重(t)
20.000 2.800
駆動方式 制御器 モーター(kw) ギア比
平行カルダン TCH-10
(電機子チョッパ)

(100×4)
ブレーキ 定員(座席) 冷房機 台車
電気指令式
電磁直通ブレーキ
集中式
40.000kcal/h
T-6
(1067mm)
セミステンレス車体
左の写真は冷房装置を取り外した当時のもの
参考;鉄道ピクトリアル「東京都営地下鉄」No704 2001.7



東京都交通局と京王電鉄との駆け引き --10-000系10-010F試作車--

・・・ 10-010F(10-010・10-011・10-012・10-019) 1971年日本車輌製

1971年。黄色帯の試作車が都営三田線に登場しました。
三田線のラインカラーはブルーですから、それは目立った存在だったろうと思われます。
ナンバーも10-000とハイフンが一つはいり、10-010~019となりました。

ところでこれら4両、セミステンレス車体の試作車は三田線用ではありません。
実は都営地下鉄10号線(現:都営地下鉄新宿線)の開業新規にむけて造られた試作車なのです。
しかし落成当時、新宿線は開業前だったため、三田線で試運転を行ったということなのです。
それにしても、有楽町線のラインカラーである黄色の帯を巻いていたというのは妙ですね。

妙といえばレールの幅です。
都営新宿線は、京王本線と乗り入れることになっていたので、
1,372mmという特殊な軌間となってます。
しかし、三田線は日本では一般的な狭軌(1,067mm)でしたので、
10-010F 試作車は、狭軌(1,067mm)対応台車を装着して落成しました。

なぜ、台車を変えてまで、他の線区で試運転をしなければならなかったのでしょう。
もっとも新線開業にあたって、試運転は欠かせないものです。
しかしそれは、その線区での習熟運転を目的としたもので、
開業日に合わせたタイムテーブルの中に組み込まれています。

10-010Fは試作車です。
当然、それらを試すための試運転も必要ということになります。
でも、それらの試験をするための日程をタイムテーブルの中に組み込んだのでは、
開業が遅れてしまいます。
多額の資金をつぎ込んで開業させるのです。
一日も早く運賃収入を得なくてはなりません。
また、一日も早い開業を心待ちにしている都民の思いをかなえるのも大切なことです。
そんなわけで、三田線でそれら新技術の成果を試そうということになったのです。
ちなみに10-010F試作車は約7年もの間、三田線で走行・営業試験を行ってる計算になります。

ところで10-000系とは、どんな電車でしょう。どのような新技術が盛り込まれたのでしょう。

10-000系は20m片側両開き4扉の車体で、座席はロングシートと、極めて標準的な通勤形車両です。
セミステンレスの車体も、特に先進的ということはありません。

しかし、10-010F試作車は、電機子チョッパ制御を採用しています。
電機子チョッパ制御そのものは、営団地下鉄千代田線6000形で実用化され、
もはや量産されている技術でしたが、都営地下鉄では、初めての導入です。
実は都交通局としては、乗り入れ予定の京王に対して電機子チョッパの導入を促したいという思いがあったのです。
地下鉄線内は元来ひんやり涼しいものです。
しかし従来の抵抗制御車からは、多量の熱が発生します。
事実1970年代の御堂筋線なんかは、気持ち悪いくらい「むああ」としてました。
電機子チョッパを導入すれば、冷房車を導入せずとも熱い思いはせずにすむのです。
しかし、京王の電車は当時その大半が抵抗制御車でした。
いまさら乗り入れのために高価なデバイスである電機子チョッパを導入するのには難があります。
また電機子チョッパを搭載した中央線の201系が、踏切を開けてしまうという誤作動を生じさせたという事件もあり
都交通局としては、長期にわたる試験運行を行うことで実績作りをする必要があったのです。
結果京王側は、乗り入れ予定の6000系に界磁チョッパを導入することになります。

次に、10-010F試作車が、冷房装置を搭載していたことも、特筆すべき点です。
もっともこれも、大手私鉄では、もはや大量に導入されており、冷房装置自体、目新しいものではないのですが、
こと地下鉄に限定してみると、
都営地下鉄はもとより営団地下鉄でさえただの一両も冷房車は存在していませんでした。
ただ京王は、私鉄業界初の通勤冷房車を導入した経緯があり、すでに冷房車が多数存在していました。
乗り入れてくる以上、都交通局に対して、冷房車を導入するよう要請したのは当然のことでしょう。

1978年。新宿線の開業準備により10-000系量産車の投入が開始されました。
試作車も台車を交換した上で同線に転属します。
(ちなみに10-010F系試作車の1067mm台車は、三田線6000系27Fに転用されています。)

さてその際、例の冷房装置は撤去されてしまうのです。
後年、他の新宿線編成と同様の冷房装置を再設置してはいるのですが、
本来の活躍場所である新宿線で活躍するにあたって、
試作的な存在であったとはいえ、わざわざ冷房装置を撤去して非冷房でデビューする
などということをやっているのが10-010F試作車です。
結果、1978年には、再び、都営地下鉄にも営団地下鉄にも1両たりとも冷房車がいなかった。
という嘘みたいな話になります。

新たに量産車として製造された非冷房の中間車(2両)を組み込んで 
6両編成の非冷房車として営業を開始したのが10-010F試作車です。
他の編成と同様、足並みを揃えたということになるのでしょうか。

先行開業したのは、東大島-岩本町間。
まだ直通運転していなかったので、
こと冷房で京王と足並みを揃える必要はまだなかったということですね。

直通運転が始まったのは2年後の1980年3月。
でも都交通局は、冷房車を導入してはいません。

その後、10-000系は、路線延長や8連化、列車増発などにあわせて増強され、
1997年までには、8両編成28本の計224両が製造されているのですが、
冷房化については、1988年から生産が始まった4次車にいたって、やっと冷房車が導入されました。
10-010F試作車を含むそれ以前の車両について
冷房装置を取り付け改造したのは、1989年12月から95年6月にかけてのことです。
冷房化準備工事はしていたのに、なんとものんびりしたことです。

このようにみてきますと。
トンネル内の涼しさを維持し、冷房車導入に消極的だった東京都営地下鉄と
冷房車導入に積極的ではあっても、高価な車両を導入するのには消極的な京王電鉄。
この両社の駆け引きが、10-010F試作車の背景に見え隠れしているような気がするのです。

 、
東京都営地下鉄 新宿線用 10-070 10-070

1978年、都営地下鉄新宿線 
岩本町~東大島間の開業にあたって、登場した量産車

試作車とは異なり、
前面のデザインが大幅に変わりました。

この量産車の登場を期に、10-010F試作車は
量産車同様の仕様に変更されました。

なお、冷房改造されたのは89-95年のことです。
10-070          笹塚駅

10-010F 試作車は内部構体に普通鋼を使用するセミステンレス構造のため老朽化が進み、
同様の鋼体をもつ1979年までに製造されたセミステンレス車(計108両)とともに,
2004年12月から2006年8月にかけて、順次新型車両である10-300形と10-300R形に置き換えられました。


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参考文献;鉄道ピクトリアル「東京都営地下鉄」No704 2001.7
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