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映画「RAILWAYS」−もう一人の主役 一畑電気鉄道 デハニ50形
一畑電車を舞台とした映画 『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』が上映されます。 主役は中井貴一さんですが、もう一人の主役はデハニ50形電車です。 あのオレンジ色の電車は、レトロムード満点の電車です. もし、あのデハニ50形なかりせば、 この映画の叙情性は大きく違ってしまうのではないでしょうか。 そこで今回は、この電車「デハニ50形」を取りあげてみたいと思います。 デハニ50形は北松江線(一畑口駅-北松江駅)の開業時である昭和3年に まずデハニ51・52(当初はデハニ3・4)が登場、 翌年大社線の開業に備えてデハニ53・54が増備されました。 現存していれば、まもなく80歳を迎える長老ともいうべき電車です。 わたしが初めて一畑電気鉄道を訪ねたのは、1981年の8月です。 いまから30年近くも前のことになりますが、 その時でさえこの電車の古風な姿に感動したのを覚えています。 なにせ、荷物室なるものを備えています。 そしてなんとドアが自動ではないということに驚きを隠せませんでした。 当時、デハニ51はクロスシート化されデハ21に、デハニ54はデハ11に改造され、 デハニ50形は2両にその数を減らしていました。 その時、デハ21もデハ11も元気に走り回っていましたが、 デハニ52はというと平田市駅の片隅でひっそりたたずんでおり、 真っ先に消えてゆくに違いないと思ったものです。 しかし、先に姿を消したのはデハ11(1986年)。デハ21も1994年には、廃車され、 結局、デハニ50形が21世紀にまで生き延びることになります。 その理由は、なんでしょう。 まずデハニ52が、松江市の定期観光コースに使用するためにお座敷列車「ふるさと号」(1994−1996年)に改装されたということが挙げられます。 デハニであるがゆえに、またドアが手動であるがゆえに あまり使用されなかったことで傷みが少なく、改装対象車輌に選ばれたのかもしれません。 (なお、この際「ニ」が消えてデハ52となりましたが、外見的には荷物室はそのままでしたので、その後も「デハニ52」と呼ばれています。) 国鉄においてお座敷列車(=客車列車)は珍しいというほどのものではありませんが、 民鉄においては例は少なく、お座敷電車ともなりますと本当に希少な存在です。 一方のデハニ53はラッシュ時の増結用となっていましたが、 これもあまり使用されなかったということで傷みが少なく 1996年に定期運用を外れたのち、3年後の1999年にデハニ52同様畳敷きに改装され、 デハ52とデハニ53は2台そろって ビール列車などの季節運用に従事するようになりました。 (また、この両車は工事列車の牽引車としても使用されたようです。) デハニ50形は、旧型車の中でも、手動加速(HL)というシンプルな制御器に、 日車のD-16形台車を装備するといったごく標準的な仕様であったということも長生きできた理由と考えられます。 しかし、これほどの高齢車を維持することは並大抵のことではなかったでしょう。 数少なくなった昭和初期の車両として、その価値を知るスタッフの地道な努力を忘れてはならないと思います。 そして、2009年8月。 デハニ50形は、前述の映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』の撮影に用いられることになります。 こんな映画が上映されることを知った私は、デハニ50形のオレンジ色が目に浮かんで、 「この映画監督さんは、本当に佳い素材に目をつけたものだ。」 と思うとともに副題である −49歳で電車の運転士になった男の物語− を読むにつけ、自分と同世代の主人公が子供の頃からの夢を叶えるという設定に ぐぐっと惹きつけられてしまいました。 超一流企業のエリートサラリーマンである主人公が、少年のころ思い描いた自分の夢を現実にするために必要不可欠なもの。 それは、タイムスリップを可能にする現実の情景です。 屋敷林が点在する出雲地方の田園風景の中を走り抜けてゆくデハニ50形。 主人公が少年のころから憧れてきた電車がいまなお現役で走っているという奇跡。 デハニ50形がいなければこの映画は成り立たなかったはずです。 そして映画の中では、このデハニ50形が手動扉であることがさりげなく描かれているのですが、 私には、これこそがストーリーの鍵となっているようにおもえてなりません。−そう。 夢の扉は自動では開かないのです。 −21世紀のいま。思えば、日本のどこを探してもこれ以上の舞台装置は見つからないのではないでしょうか。 この映画では、もう一人の主役であるデハニ50形電車が颯爽と本線を走行しているシーンを堪能できます。 デハニ50形は最後の花道を飾ったといえるでしょう。
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