鉄道写真管理局JR東日本 EV-E301系
2015/04/30 UPJS3VXWのHPです。
 
JR東日本 EV-E301系 EV-E301-1 (ACCUM) 定員
48/133
総合車輌製作所製
2014
長さ(mm) 幅(mm) 高さ(mm) 自重(t)
19.500 2.800 3.620 40.2
制御方式 モーター(製造) ブレーキ 台車(製造)
VVVVFインバータ
IGBT
MT78A×2 電気指令式
回生付き
DT-79
TR−255D
制御装置 モーター(kw)出力 冷房装置 Li-ionバッテリ
SC-100 95×2
AU736×1
33.000kcal/h
22モジュール直列×2並列
190.1kwh
車両諸元表 鉄道ピクトリアル「鉄道車両年鑑」 2014.10 No896より

スマートであるということ。

EV-E301系は2014年に烏山線に導入された蓄電池駆動の電車です。、
愛称は「ACCUM」。Accumulator(=蓄電池)の一部を用いて命名されました。
形式の「EV」もまたElectric storage Vehicle(電気貯蔵車両=蓄電池車両)の意で、
電車ではあるのですが、モハとか にならなかったということで、新たな時代が到来したと感じられます。

ところで蓄電池駆動の車両なんですが、これ自体、別に目新しいものではありません。
過去に数多くの鉱山でトロッコを牽引したのは蓄電池式機関車。
すなわちバッテリー機関車(バテロコ)です。遊園地などでもバテロコが活躍していました。
西武山口線もかつてはバテロコでしたね。

しかし日本の鉄道線で営業用車両として使用することを前提とした蓄電池式電車は今回が初めての事例となります。
電車というのもポイントです。

ところで、いままでなぜ実用化できなかったのでしょう。
それは、蓄電池そのものが大きな問題を抱えていたからです。
普段通りの使い方をするだけでも、かなりの大きさものものが必要でした。
そして充電時間のかかることかかること…。
半日かけて充電して、ものの一時間で使えなくなる…ではとても使えません。

非電化区間を完全に無充電で走行するとすればバッテリーの搭載量は当然多くなります。
結果、車両は重くなり、エネルギー消費は増大します。
またバッテリーにより車両のスペースが圧迫されるといったデメリットもあります。

ならば途中駅に充電設備を設けて電力を補いながら走行する方法もありますが、
非電化区間内に新たに充電設備を設置する必要があり、コストがかかります。
また、いくら急速充電をしても停車時間にどれだけ充電できるでしょうか。

つまるところはバランスです

思うに電車というのは、効率のよいシステムですね。
常に架線から動力の供給を受けることができるのです。
非電化区間を走行する鉄道車両にあっては、車両自体に動力発生装置を積み込まねばならない訳ですから、
当然重くもなれば、構造も複雑になります。

でも、だからといって、すべての路線を電化するというのも無理があります。
それだけの設備投資に見合う輸送量がなければなりません。
ですから非電化路線というのは投資に見合うだけの見返りに乏しく、
車両に手を加えるにしてもそんなにお金をかけていられないというのが本音です。

しかしJR東日本は、日本最大の鉄道会社です。
非電化区間における環境負荷の低減について無関心ではいられません。

今回の導入に当たっても、JR東日本は様々な試みを繰りかえしてきました。

EV-E301系は、試作電車として製作されたE995系で開発を進められた蓄電池駆動電車システムを採用したものです。
ところがこのE995系。
元は2003年にシリーズ式ハイブリッド気動車として試作されたE991系気動車(キヤE991形:キヤE991-1)でした。

キヤE991-1 (NEトレイン) シリーズハイブリッド試験車
東急車輌製
2003.5
長さ(mm) 幅(mm) 高さ(mm) 自重(t)
19.500 2.800 3.655 記載なし
制御方式 モーター(製造) ブレーキ 台車(製造)
VVVVFインバータ
IGBT
MT936×2 電気指令式
回生付き
DT-959
TR−918
制御装置 モーター(kw)出力 冷房装置 エンジン
SI-905 95×2
AU910×1
42.000kcal/h

331.kw
車両諸元表 鉄道ピクトリアル「鉄道車両年鑑」 2004.10 No753より

「もと気動車の電車」という点でも珍車ですね。

ハイブリッドは環境に優しいシステムであるということでトヨタの自家用車プリウスなどでも採用されているわけですが、
E991系に採用されたシリーズ式ハイブリッドというのは、プリウスのそれとは違います。
プリウスは、エンジン、モータ、ともに駆動に関わります。
対してE991系はモータでのみ駆動します。その電源を車載のディーゼルエンジンでまかなう電気式気動車です。
半世紀も前に存在した電気式気動車と何が違うのかといえば、ブレーキ時にモーターから得られた電力を蓄電池に蓄え、
それを再生利用するという点です。

JR東日本では、ディーゼルハイブリッド車両(キハE200 系)を実用化し、2007 年から小海線で営業運転中です。
でも車両自体に動力発生装置を積み込んでいる訳ですから、
当然重くもなれば、構造も複雑になっているということには違いありません。

JR東日本は次のステップへと進んでゆきます。
それがE995系電車(クモヤE995形:クモヤE995-1)です。
前述のハイブリッド気動車(キヤE991形)を2007年3月にいったん除籍し
2008年、燃料電池動車に改造(無車籍)しました。
燃料電池は水素を燃料とする固体高分子形燃料電池で出力65kW のものを2台搭載しました。
鉄道車両に搭載するということで、高出力で信頼性の高いものを選定したわけですが、時期尚早ということでしょうか。
即実用化ということにはなりませんでした。

翌年の2009年にE995系電車は蓄電池駆動車に再改造されました。
(車籍が復活したのは2010年2月(新製車扱い))。
さてE991系気動車はE995系電車となった後も愛称は気動車時代と変わらず「NEトレイン (New Energy Train) 」でしたが、
このとき愛称を「NE Train スマート電池くん」と改めました。
そしてこのシステムが、EV-E300系に受け継がれてゆくのです。

では、どこがスマートなのか? キーはパンタグラフです。
電車に改造した当初は燃料電池駆動だったためパンタグラフはありませんでしたが、
蓄電池駆動電車として再改造された時はパンタグラフを装備しました。
すなわち、電化区間では通常の電車として走行しながら充電し、
非電化区間では電化区間や駅停車中に充電した電力を元に蓄電池駆動で走行するというものです。

架線さえあれば、普通の電車同様、ここからパワーを得ます。
しかし、電車は常に力行しているわけではありません。パワーオフの状態で充電しようと考えたのです。

蓄電池のデメリットは、その大きさと充電時間。
架線から受電できるところでは、その恩恵を最大限に享受し、
蓄電池をなるたけ小さくするという発想です。

これを実用化したのがEV-301系です。具体的にはこうです。
EV-301系は烏山線で運用されますが、
烏山線が選定されたのは、そのロケーションの良さからです。
列車は電化区間である東北本線宇都宮〜宝積寺間に乗り入れていきます。
ここでは架線から電力の供給を受けてモーターを動かすとともに、蓄電池に充電。
加えて終点の烏山駅に設置された架線でも充電できるようにするほか、
回生ブレーキによって発生した電力も蓄電池に充電するという徹底ぶりです。
この充電した電力を使って非電化区間の烏山線宝積寺〜烏山間のモーターを動かすのです。

とはいえ、これは簡単なことではありません。
EV-E301系は蓄電池を電源としているため、各機器の動作電圧が通常の電車よりも低い直流630Vとなっています。
電化区間の走行や駅での充電の際には架線から取り入れた直流1500Vを630Vに降圧する必要があります。
そのために、コンバータが搭載されています。(回生ブレーキ動作時は逆に昇圧)
一方で走行用のモータは交流です。これを駆動するにはインバータが必要です。
EV-E301系では、これらを一体のケースに収めた「電力変換装置」を搭載しているわけですが、
その中では実に複雑な動作が行われているのです。

そして肝心かなめの充電池ですが、1両あたり5台(2両で合計10台)のリチウムイオン電池を搭載します。
リチウムイオン電池は小型、大容量がウリですが、過充電・過放電などに弱く、
取り扱いを誤ると最悪の場合爆発・発火する恐れがあります。
そのため強固なケースに収められており、各セルごとに電流値や温度を精密に監視するシステムも搭載されています。
また事故などにより長時間足止めされてしまう事態や、経年劣化による容量減少も想定しなければならず、
2両合わせて190kWの容量を持たせています。
結果、蓄電池により床下の大半が占有されてしまうのです。

烏山線において実際にどれくらい消費されるのかというと、片道でその5分の1程度でした。
しかし、夏場には冷房電源も確保せねばなりませんし、終点の烏山駅で充電できなくなる可能性もゼロではありません。
また事故などにより長時間足止めされてしまう事態や、経年劣化による容量減少も想定しなければならず、
そこから導き出された数値が190kwだったということでしょう。

実用化するということが、いかに大変なことかがうかがえます。

スマートであるということは、どういうことなのでしょう。
それは、今あるものを上手に活用しながらもイノベーションを着実に実用可能なものとしてゆくことでしょう。
自家用車のハイブリッドが成功したのは、基本的に今あるガソリンスタンドがそのまま使えるという安心感と燃費の安さです。
しかし、その裏には、スマートという言葉からはほど遠い地道な努力の積み重ねがあるに違いありません。


参考文献:鉄道ピクトリアル「鉄道車両年鑑2014年版」 2014.10 No896
                 「鉄道車両年鑑2004年版」 2004.10 No753
                 「鉄道車両年鑑2008年版」 2008.10 No810
                 「鉄道車両年鑑2010年版」 2010.10 No840
      JR東日本の開発レポート(JR東日本の HP) 2011.11.6/2009.10.6/2006.4.11/2005.11.8

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