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2013/11/28 UP |
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J鉄局TOP>珍車ギャラリー>肥薩おれんじ鉄道 おれんじ食堂 HSOR100形 114−116
−沿線サポーターによって支えられている「おれんじ食堂」−肥薩おれんじ鉄道は、2004年3月、九州新幹線(新八代 - 鹿児島中央間)の開業に伴い、JR九州から移管された鹿児島本線(八代 - 川内間116.9km)の運営を行っている第三セクターの鉄道会社です。 出資者は、熊本県や鹿児島県などの沿線自治体に加え、JR貨物もその名を連ねます。 貨物列車をそのまま引き続き電気機関車牽引で運行するため、同線は電化路線のまま維持されているのですが、 肥薩おれんじ鉄道に在籍する車両は、なんとその全てが3セク向けの軽快気動車です。 さて、そんな肥薩おれんじ鉄道は、2013年3月から、「おれんじ食堂」なる列車を運行することになったのです。 気動車の食堂車ということですから、国鉄なら「キシ」ということになりますが、キシ82などどは、まずその構造からして違います。 元来、食堂車というものは車内を2部屋に区切り、本格的な調理設備を設置した調理室とテーブル席を備えた食堂とする形態が一般的でした。 しかし、「おれんじ食堂」に設置されたキッチンはきわめてコンパクトです。 それもそのはず、おれんじ食堂は、食堂車として開発製造された新車ではなく、 一般車であるHSOR100形(101〜117)のうち114と116の2両を「おれんじ食堂」専用車両として改造したものだったのです。
おれんじ食堂のお話をする前に、従来の食堂車について見てみようと思います。 まず、調理室です。 食堂車が誕生して以来、調理設備は永く石炭レンジと氷冷蔵庫を使用していました。 電気レンジや電気冷蔵庫が存在していた時でさえそうです。 というのも電力供給量が充分ではなく故障が多かったことがその理由です。 電化調理設備が実用化されたのは、集中給電方式を採用した元祖ブルートレイン20系客車のナシ20形からです。 食堂車に課せられた条件は、まず電気ということです。 食堂車は電気をやたら食うのです。 気動車における食堂車第1号は、キサシ80形(キハ81系)です。 電車の食堂車であるサシ151形と同様の完全電化を採用するために、 駆動用エンジンと同タイプのDMH17H-GとDM63形発電機を組み合わせた発電セットを搭載しました。 付随車(キサシ)として製造されたのは、これらの電源セットに加え、大型の調理用水タンクを3個搭載したためで 走行用エンジンを搭載するスペースがなかったからです。 元来、非力であった80系気動車です。 付随車となるキサシ80形は重荷となり長距離でかつ負荷が高い運転を課せられる特急列車ではエンジントラブルが続出したそうです。 82系になってからは、食堂車にも走行用エンジンを2基搭載しました。(キシ80形) 電源は、先頭車であるキハ82形から供給を受け、水タンクは床上に移設する設計変更を行いました。 このため食堂定員が40人から左右1卓ずつ減り8卓32人となっています。 このように見てみると、水タンクも食堂車に課せられた問題であることをお察しいただけると思います。 食堂車に課せられた条件は、次に水ということです。 食堂車は水をやたらと使うのです。 これは特に新幹線車両では大問題でした。 東海道山陽新幹線の最大運転時間は6時間以上に及びます。 調理のみならず食器も洗うためにも水は大量に必要となっていました。 使用後の水についてもどう処理するかは問題です。 トイレなら汚水を薬液処理し、洗浄水として再利用することも可能ですが、 食堂車で汚水の再生利用など到底考えられません。 かつて、在来線では、汚水を走行中に外へ捨てておりました。 しかし新幹線でそのようなことができるはずもありません。 そのため汚水を床下のタンクに溜め込み、途中駅での停車中に汚水を排水する方法が採用されました。 もとい、新幹線でなくても、今や汚水の垂れ流しなどできるはずもありません。 これだけの大がかりなモノを必要とする以上、 既存のそれも3セク向けの軽快気動車を改造して、食堂車にすることなんて考えもつかないことなのです。 さて、航空機でも国際線などで供食サービスをしていますね。 船舶とは違って、大きな厨房はありません。 機内食は、空港近くの工場で用意され、航空機のギャレーで加熱され供食されるシステムをとっています。 乗客は、チキンかポークかなど、選択することも可能ですが、品切れになれば選択の余地はありません。 食事が済めば、トレイごとカートに納められ、食器はそのまま空港近くの工場で洗浄されます。 そうです。このシステムを導入すればいいのです。 メニューはアラカルトではなく、予約制にし、あとは必要最小限暖めるだけの状態にして駅で積み込む。 おれんじ食堂では、新たに電源用エンジンを搭載しています。 軽量コンパクトなものが開発されたことが大きいですね。 そして使用後の食器も、車内では洗浄せず供食する業者にまかせることにしました。 これなら、巨大な水タンクなど必要ありません。 食堂として自立するのではなく、沿線からのサポートを受けるという 発想の転換と工夫で、おれんじ食堂は誕生したといっていいでしょう。 しかしハードだけではありません。 むしろ、おれんじ食堂が成り立つか否かはソフト面が大事な要素となります。 元来、食堂車の経営は芳しいものではありませんでした。 なぜなら食堂車のお客は、当然その列車の乗客に限られます。 すいている列車では開店休業状態になる反面、繁忙期には、自由席代わりに、コーヒー一杯で長居をする不心得者もいたわけです。 いきおい、メニューの単価を上げなければやってゆけない状態になってしまいました。 それだけのコストがかかっているのだから仕方のないことでもありますが、 料理そのものは、価格に見合ったものとは思えない高価なものとなりました。 また食堂車は編成の中程に連結されますが、それでも両端の車両からは、わざわざ出かけて行くことになります。 その間、もとの座席は空気を運んでいるだけです。 在来線の昼行特急列車における食堂車の営業は、JR化を待たずに全て終わってしまいました。 新幹線についても1995年にその営業を終えています。 肥薩おれんじ鉄道というローカル鉄道で、食堂車の経営が成り立つものなのでしょうか? ところで食堂車は、北斗星やTWEなどの寝台特急で生き残っています。 しかし従来形の食堂車とは違うものと考えた方がいいかもしれません。 なぜならコンセプトが違います。 食堂車は空腹を満たすものではなく、列車で優雅に食事をする旅の付加価値となるという位置づけをしているのです。 ですから豪華なフルコースメニューをあらかじめ予約するのがメインとなっています。 このことによって、確実な収益を見込めます。 おれんじ食堂でも、このシステムを取り入れています。 いや、もっと徹底しているというべきでしょう。 列車で食事をすること自体を目的としているのです。 ですから、指定された座席はそのままレストランの予約席です。 自分の座席から食堂車におもむくなどという無駄はありません。 ここで、おれんじ食堂の運行計画を見てみましょう。 定期運行日数は、年間215日間。基本は、金・土・日や春休みなどの休日です。 (貸切運行日数は年間35日間程度を予定) 運行本数は1日3便。1行程(新八代⇔川内)、片道約3時間程度の小旅行です。 おもしろいのは、乗車プランと料金です。 おれんじ食堂は2両編成ですが、1号車と2号車で料金が異なるのです。 1号車(指定座席数23席)は、ダイニング・カーと呼ばれ 運賃+座席指定料金+お食事などの料金がすべて含まれたパック旅行料金で提供されます。 おれんじ食堂1号の場合、昼食の時間帯列車ですから、12,800円。 おれんじ食堂3号の場合、夕食の時間帯列車ですから、14,600円。 とサービス内容に応じて、違いがあります。 (なおアルコール類や車内販売などは別途料金) 2号車(指定座席数20席)はリビング・カーと呼ばれ、 とりあえず運賃+座席指定料金で乗車できます。 そしてお食事などは、別途料金(4,500円)という設定です。 なお停車駅では「食のエンターテインメント」というイベントを行っていますが、 1号車(パック料金)の場合、クーポン券でこれを利用できます。しかし2号車の場合は現金払いとなるのです。 2号車のほうが気楽に乗車できますが、結果高くついたってことになるかもしれませんね。 いやいや、お金の問題ではありません。肝心なのはお食事の中身です。 詳しい内容は、肥薩おれんじ鉄道のHPを見ていただくこととして、 列車ごとに用意されているメニューは、地元のシェフたちが腕を競い合っているもので、 地元の食材をふんだんに採り入れた渾身のメニュー各々用意されています。 また、前述の「食のエンターテインメント」では、佐敷駅、水俣駅、阿久根駅など、 その停車駅の街の人たちが 旅人をお出迎えします。 手づくりマルシェ(市場)で、熊本・鹿児島の豊かな食と特産品の数々を味わいながら お土産を 選んでいただくという趣向です。 車両のみならず、あらゆるサービスも沿線の人々のサポートによって、 おれんじ食堂は支えられているのです。 でも、なぜ肥薩おれんじ鉄道なのでしょう? それは、乗ってみればわかります。こう言っては何ですが、 現在のJR鹿児島本線は、これといって見所はありません。 しかし、JRから切り離された肥薩おれんじ鉄道区間は、風光明媚なところを選んで走っているかのような景観が続きます。 とりわけ、日奈久温泉から海浦までの区間は、不知火海とも呼ばれる八代海のむこうに 天草の島々を望むことができるのです。 運がよければ、そんな美しい背景をバックに夕陽のページェントに酔いしれることができるでしょう。 そして、そこに美味い料理とワインでもあれば、まさにマリアージュ。 どんなレストランにも真似のできない、贅沢な想い出を演出する。、 それが、おれんじ食堂なのです。
私は、時間がなくて写真を撮っただけですが、肥薩おれんじ鉄道のHPを見るに付けても、 ここまできて、なぜ乗らなかったんだと後悔すること頻りです。 参考文献 鉄道ピクトリアル 鉄道車両年鑑 2013年版 No881 肥薩おれんじ鉄道のHP |
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